『未来へとつながる絆』
art:Fantasista Mayumi 作
19世紀末、イギリスと日本の文化交流が盛んに行われていた時代。東洋文化に触発された美しいティーカップが生まれました。その名は「ミカド(帝)」。鮮やかな牡丹、優美な桜、そして青色の花が描かれ、縁には金彩が施されたそのカップは、異国の美しさと英国の伝統が融合した優雅なデザインでした。
舞台は、イギリスのロンドンの賑やかな街角にあるアンティークショップ。日本から留学に来ていた女性、杏(あん)が1つのカップに手を伸ばした瞬間、手がぶつかりそうになり、とっさに手をひっこめました。ぶつかりそうになった手の先に視線を向けると、そこに立っていたのは若き貴族の青年ジェームズでした。二人は偶然にも同時にミカドのカップに魅了され、「美しいですね」とつぶやきました。
「日本の文化を感じますね」と言うジェームズに、杏は微笑みながら答えました。「このデザインに描かれている、牡丹と桜は豊かさや繁栄、青い花は幸福や心の絆を象徴します。日本では、それぞれが特別な意味を持つ花なんです。」
その日、二人はカップをきっかけに言葉を交わし、短い時間ながらも心を通わせました。しかし、ジェームズは貴族の身分であり、杏は異国から来た学生。二人が再び会うことはないだろうとお互いに思いながら、それぞれミカドのカップを購入し、お店を後にしました。
ある夜、ロンドンの華やかな舞踏会で再び二人は巡り会いました。ジェームズが杏を見つけると、人目を忍んで彼女に近づきました。「またお会いできるとは思いませんでした。あの日のカップ、覚えていますか?」
杏はうなずき、「あのカップを眺めていると、不思議と穏やかな気持ちになります。まるで、私の心を繋げてくれるような気がして……」と静かに答えました。
その日から、二人は密かに会うようになりました。「ミカド」のカップでお茶を飲みながら、日本の文化やイギリスの習慣について語り合い、お互いの身分の違いを知りながらも惹かれ合っていきました。
しかし、彼らの関係は周囲から歓迎されるものではありませんでした。ジェームズの家族は、彼が日本人女性と親しくしていることを知り、強く反対した。一方、杏も日本の留学生仲間から「勉強をしに来ている自分の立場を忘れるべきではない」と責められるようになったのです。
ジェームズは家族に、「彼女と出会って初めて、本当に自分らしくいられる場所を見つけたんだ」と告げるも、家族の反応は冷たいものでした。それでも、彼は諦めることなく杏に誓いました。「僕たちは必ず、誰にも邪魔されない場所を見つけよう」
ある雨の夜、二人は再びあのアンティークショップを訪れました。そこには、かつて手に取った「ミカド」のカップが美しく飾られていました。杏はカップに触れながら、「このカップには不思議な力がある気がします。私たちを引き合わせ、守ってくれる力が……」とつぶやきました。 その瞬間、カップの中に牡丹の華やかさ、桜の優しさ、そして青い花の静かな美しさが浮かび上がるような光景が浮かびました。それは二人にとって、新しい未来への希望を示しているように感じられました。
ジェームズと杏は、互いの愛を信じてロンドンを離れることを決意。日本とイギリス、二つの文化が交差する場所で新しい人生を歩もうと、ミカドのカップと共に旅立ったのです。
「ミカド」のカップは、二人が歩む新しい道を照らしてくれる特別な存在となりました。どこにいても、二人がこのカップでお茶を飲むたびに、その模様に刻まれた牡丹、桜、青い花が彼らを新たな始まりへと導いてくれるようでした。
このカップを眺めていると、未知なる世界へ踏み出す背中をそっと押してくれるのかもしれませんね。
文:ゆか
▶ 朗読音声はこちら >>:いちげんちひろさんさん
art:Fantasista Mayumi 作
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