『森のお茶会へようこそ』
art:Fantasista Mayumi 作
昔々、イングランドの深い森の中に、隠れた小さな村がありました。その村では「魔法のティーカップ」として知られる特別なカップが語り継がれていました。そのカップの名前は「ラビニア」。白地に描かれたブラックベリーの葉や花が美しく、見る者の心を癒やしました。
ある日、村に住む少年オリバーは、森から聞こえる不思議な声に気づきました。それは優しくも力強い声で、「ラビニアを持ってきて」と呼びかけていました。声に導かれるように、オリバーは家にあったラビニアのカップを手にし、森の奥深くへと足を踏み入れました。
森の中は静かで、木漏れ日が地面に踊るように揺れていました。そして、森の中央にたどり着くと、そこには大きな茶色のくまが座っていたのです。そのくまは驚くほど穏やかな目をしており、オリバーを見るとゆっくりと口を開きました。
「そのカップを持ってきてくれてありがとう。この森では長い間、ラビニアのカップを使ったお茶会が開かれていないんだ。」
くまはオリバーに感謝しながら、森に住む動物たちを呼び集めました。リス、ウサギ、フクロウ、さらには小さなハリネズミまでが次々と現れました。くまは大きな手でラビニアのカップを持ち上げ、魔法のように美味しい紅茶を注ぎ始めました。その紅茶にはブラックベリーが使われており、カップから漂う甘酸っぱい香りが森全体を包み込みました。
動物たちはラビニアのカップを回しながら、順番に紅茶を飲みました。不思議なことに、その紅茶を飲むと心が温かくなり、体に力が湧いてくるような感覚が広がりました。そして、オリバーが一口飲むと、幼い頃に母親と森でブラックベリーを摘んで遊んだ楽しい記憶がよみがえり、心が満たされたのです。
お茶会が終わると、くまはオリバーに語りかけました。「ラビニアのカップには、この森を守る力が宿っているんだ。昔、人間と動物が仲良く暮らしていた頃、このカップでお茶会を開くことで森の調和が保たれていたんだよ。でも、いつからか人間は森を離れ、このカップも忘れ去られてしまった。そして、ブラックベリーは森と人間をつなぐ象徴だったんだ。」
オリバーはその話を聞き、再びラビニアのカップでお茶会を開くことを決意しました。「森と村がまた仲良くなれるように、僕がこのカップを大切に守るよ!」と力強く約束しました。
オリバーは村に戻ると、森のお茶会のことを村人に話しました。初めは信じてもらえませんでしたが、ラビニアのカップを使ったお茶会で村人もその魔法を体験し、森とのつながりを取り戻しました。その紅茶に使われたブラックベリーもまた、村人たちの心を癒やし、力を与えたのです。
それ以来、ラビニアのカップは村と森の平和の象徴となり、代々大切に受け継がれることになりました。そして、森のくまは今もラビニアのカップを持つ者を見守りながら、森の調和を保つために静かに暮らしていると言われています。
ラビニアを使っている人のところには、「お茶会しよう」とくまさんから声がかかるかもしれませんね。
文:ゆか
art:Fantasista Mayumi 作
👉 https://www.instagram.com/mayumi.kotsubo